- 部分塗装と全塗装、どちらを選ぶべき?プロが教える判断基準と費用の真実[2026.02.01]
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この記事でわかること
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部分塗装と全塗装のメリット・デメリットを比較し、状況に合わせた最適な選択ができる✔
色ムラを防ぐためのプロの技術や、失敗しないための依頼時の注意点がわかる✔
全塗装の具体的な費用相場や施工期間を知り、予算内で愛車をリフレッシュする方法が学べる愛車にキズがついてしまったときや、塗装の色あせが気になり始めたとき、「部分的に直すべきか、思い切って全塗装すべきか」と悩む方は非常に多いです。費用を抑えられる部分塗装は魅力的ですが、「色の違いが目立たないか」という不安もつきまといます。一方で、全塗装は新車のような輝きを取り戻せますが、高額な費用や長い施工期間がネックになることもあるでしょう。
これから、プロの視点で部分塗装と全塗装のそれぞれの特徴や選び方の基準について、詳しく解説していきます。あなたの愛車の状態や予算、そして「あと何年乗りたいか」という将来のプランに合わせて、最適な方法を選ぶためのヒントを持ち帰ってください。正しい知識があれば、無駄な出費を抑えつつ、愛車を最も美しい状態に仕上げることが可能です。
目次
1. 部分塗装と全塗装のメリット・デメリット
車の塗装修理を検討する際、まず理解しておきたいのが「部分塗装」と「全塗装」の基本的な違いと、それぞれのメリット・デメリットです。どちらが優れているかという単純な話ではなく、車の状態やオーナー様の目的によって正解は異なります。まずは両者の特徴を整理し、全体像を把握することから始めましょう。
コストパフォーマンスに優れた部分塗装の特徴
部分塗装とは、その名の通りキズやへこみがある特定のパネル(パーツ)だけを補修し、塗装する方法です。バンパーの角を擦ってしまった場合や、ドアに小さなエクボができた場合などによく利用されます。最大の特徴は、やはり施工範囲が限定的であるため、費用と時間を大幅に節約できる点にあります。
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- 費用の安さ: 全塗装に比べて塗料代や作業工賃が圧倒的に少なく済みます。
- 施工の早さ: 小さなキズであれば、日帰りや数日で完了することも珍しくありません。
- オリジナル塗装の維持: 補修箇所以外は、メーカー純正の高品質な塗装(新車時の塗装)をそのまま残すことができます。
しかし、デメリットも存在します。最も懸念されるのは「色合わせの難しさ」です。車は紫外線などの影響で日々わずかに退色しているため、新車時のカラーコード通りに塗料を作っても、現車と色が合わないことがあります。そのため、補修した部分だけが浮いて見えてしまうリスクがゼロではありません。これを防ぐためには、隣接するパネルへ色を馴染ませる「ぼかし塗装」という高度な技術が不可欠となります。
愛車を蘇らせる全塗装の特徴
一方、全塗装(オールペイント)は、ボディ全体を塗り直す大掛かりな施工です。長年乗り続けてツヤが失われた車や、中古で購入した車の色を変えたい場合に行われます。全塗装の最大のメリットは、新車時のような圧倒的な美しさを取り戻せることです。ボディ全体の色味やツヤが均一になるため、見た目のリフレッシュ効果は絶大です。
- 完全なリフレッシュ: 細かい洗車キズや水垢、紫外線による劣化層を一掃できます。
- カラーチェンジが可能: 純正にはないオリジナルカラーや、最新モデルの人気色に塗り替えるなど、自分だけの1台を作れます。
- 資産価値の維持: 希少な旧車などの場合、高品質な全塗装は車両価値を高める要素になり得ます。
ただし、全塗装には大きなコストと時間がかかります。また、施工方法によっては、ドアの内側やエンジンルームなどは元の色のまま残るケースもあり、どこまで徹底的に塗るかで費用が倍以上変わることもあります。「安易に全塗装を選ぶと後悔する」と言われるのは、このあたりの仕様確認不足が原因であることが多いのです。
それぞれの特徴を一覧表にまとめましたので、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
関連記事:塗装とボディカラーの選び方
2. 部分塗装が適しているケースとは?
メリットとデメリットを理解したところで、次は「具体的にどのような状況なら部分塗装を選ぶべきか」を見ていきましょう。多くのケースでは部分塗装で十分に対応可能であり、むしろ全塗装までする必要がないことがほとんどです。「必要最小限の施工で最大限の効果を得る」ために、部分塗装が適している具体的なシチュエーションを解説します。
単独パーツのキズやへこみの修理
最も典型的なのは、特定のパーツだけにダメージがある場合です。例えば、「駐車場のポールにバンパーを擦った」「ドアを開けた際に壁にぶつけてエッジが欠けた」といったケースです。これらのキズは、車全体の塗装が劣化していない限り、部分塗装で完璧に近い状態まで修復できます。
- バンパーの擦り傷: バンパーはボディとは別素材(樹脂)であることが多く、色味が元々わずかに異なることもあるため、部分補修でも違和感が出にくい箇所です。
- ドアのエクボや線キズ: 1枚のパネル内で塗装を完結させる「ブロック塗装」や、隣接パネルへの「ぼかし」を行うことで、周囲と馴染ませることが可能です。
この場合、あえて全塗装をするメリットはほとんどありません。新車時の強固な焼き付け塗装を剥がしてまで塗り直すよりも、ダメージ箇所だけを補修する方が、車の耐久性維持という観点からも理にかなっています。
予算を抑えてスピーディーに直したい場合
「車検が近いので出費を抑えたい」「仕事で使っている車なので、何週間も預けられない」といった事情がある場合も、部分塗装が最適解となります。全塗装は、パーツの脱着や下地処理に膨大な手間がかかるため、どうしても工賃が高騰します。一方で部分塗装なら、修理範囲を限定することで、材料費と工賃の両方を圧縮できます。
面白いことに、最近では「クイック補修」と呼ばれるサービスも普及しており、手のひらサイズのキズなら数時間で直せることもあります。「完璧な仕上がりよりも、パッと見て目立たなくなれば十分」と考える方にとっては、コストパフォーマンスが非常に高い選択肢と言えるでしょう。
経年劣化が少ない高年式車の修理
車の年式が新しく、塗装の艶がしっかりと残っている場合も部分塗装が適しています。なぜなら、ボディ全体の退色が少ないため、新しく調色した塗料との色の差が出にくいからです。
新車から3〜5年以内の車であれば、保管状況にもよりますが、塗装の劣化は軽微です。この段階であれば、カラーコード通りに作った塗料に微調整を加えるだけで、肉眼では判別できないレベルまで色を合わせることが容易です。逆に、10年以上経過して全体が白っぽくなっている車に部分塗装をすると、補修した箇所だけが鮮やかすぎて「あ、ここ直したな」と分かってしまうことがあります。つまり、車が新しければ新しいほど、部分塗装の成功率は高まるのです。
部分塗装を選ぶべき3つの条件
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キズやへこみがバンパーやドア1枚など、局所的であること - ●
修理費用を安く抑え、施工期間を短く済ませたい場合 - ●
車が比較的新しく、ボディ全体の色あせや劣化が進んでいない場合
3. 全塗装を選ぶべき状況とは?
部分塗装では対応しきれない、あるいは全塗装をすることで劇的な価値向上が見込めるケースもあります。「修理」という枠を超えて、「再生」や「カスタム」の領域に入ると、全塗装のメリットが大きく上回ります。ここでは、コストをかけてでも全塗装を選択すべき具体的なシチュエーションをご紹介します。
ボディ全体の色あせやクリア剥げがある場合
ボンネットやルーフ(屋根)の塗装が白く粉を吹いたようになったり(チョーキング現象)、透明な膜がペリペリと剥がれてきたりしている場合(クリア剥げ)、部分塗装での対応は困難です。これは塗装の寿命を示すサインであり、一部を直しても、すぐに他の部分が劣化し始めるからです。
特に、水平面(ボンネット、ルーフ、トランク)の塗装劣化は、車全体の印象を著しく損ないます。こうなると、劣化した塗装を全て削り落とし、下地から作り直す全塗装が必要になります。この状態で無理に部分塗装を繰り返すと、継ぎ接ぎだらけになり、結果的に費用がかさんでしまうこともあります。「いたちごっこ」を防ぐためにも、全体的な劣化が見られたら全塗装(または乗り換え)を検討するタイミングと言えます。
カラーチェンジでイメージを一新したい場合
「今の車の形や性能は気に入っているけれど、色だけが飽きてしまった」「中古車で良い個体を見つけたが、色が好みではない」といった場合、全塗装は最高のアプローチになります。純正色にはないマットカラーや、他メーカーの人気色、あるいはレトロなツートンカラーなどに塗り替えることで、世界に一台だけの愛車を作ることができます。
- 愛着の深化: 自分の好みの色になった車には、これまで以上の愛着が湧きます。
- リセールへの影響: 一般的な色は査定で無難ですが、流行のカラー(例:アウトドア向けのベージュやカーキなど)に全塗装することで、一部の専門店では高く評価されるケースもあります。
長く乗り続けたい愛車のリフレッシュ
「この車にあと10年は乗りたい」と考えている場合、全塗装は車の延命措置として非常に有効です。塗装は単なる飾りではなく、鉄板を錆から守る保護膜の役割を果たしています。全塗装によって強固な塗膜を再生させることは、ボディの腐食を防ぎ、車自体の寿命を延ばすこと直結します。
特に、旧車やネオクラシックカーと呼ばれる世代の車は、エンジンの調子が良くてもボディの錆で廃車になるケースが少なくありません。外装のリフレッシュは、機械的なメンテナンスと同じくらい、車を維持する上で重要な要素なのです。
以下に、車の症状や要望に基づいた推奨リペア方法をまとめました。
4. 色ムラを防ぐための部分塗装の工夫
部分塗装を選択する際、もっとも心配なのが「修理した場所だけ色が違って見えるのではないか」という点でしょう。これを防ぐために、プロの板金塗装職人は様々な技術を駆使しています。ここでは、自然な仕上がりを実現するために行われている職人技の裏側をご紹介します。これを知っておけば、修理を依頼する際に「どのような方法で塗るのか」を確認する目安にもなります。
プロの調色技術と「現車合わせ」
まず大前提として、車の塗装には「カラーコード(色番号)」が存在します。しかし、同じカラーコードの塗料を用意しても、それだけで色が合うことはまずありません。なぜなら、塗料メーカーごとのわずかな成分差や、塗装時の気温・湿度、そして何より経年劣化による退色の度合いが車ごとに異なるからです。
そこで職人は「調色(色合わせ)」を行います。基本の配合データをもとに塗料を作り、テストピース(試し塗りの板)に吹き付け、実際のボディと並べて比較します。太陽光の下、日陰、ライトの下など様々な光源で確認し、「もう少し赤みを足そう」「黒を入れてくすませよう」といった微調整を何度も繰り返します。この工程こそが、色ムラを防ぐための最初の砦であり、職人の経験が最も問われる部分です。
境界線を消す「ぼかし塗装」の魔法
どれだけ精密に調色しても、100%完全な一致は物理的に不可能です。そこで登場するのが「ぼかし塗装(グラデーション塗装)」という技術です。これは、修理箇所の周辺に向けて、徐々に塗料を薄く吹き付けていく手法です。
例えば、ドアの中央にキズがあったとします。キズの部分にはしっかりと色を載せますが、そこから外側に向かって霧のように薄く塗料を広げていき、元の塗装との境界線を曖昧にします。人間の目は、色が急激に変わる線(エッジ)には敏感ですが、徐々に変化するグラデーションには色の差を感じにくいという特性があります。この錯覚を利用することで、肉眼では修理箇所が全くわからないレベルに仕上げることができるのです。
隣接パネルとのバランス調整
キズがパネルの端(例えばドアのエッジ部分)にある場合、そのパネルだけでぼかし塗装を完結させるのが難しいことがあります。その場合、あえて隣接するパネル(隣のドアやフェンダー)まで塗装範囲を広げることがあります。これを「ブロック塗装」ではなく「ボカシ際の処理」と言いますが、隣のパネルまでグラデーションをかけることで、パネルごとの色の段差を完全になくすのです。
「キズは小さいのに、なぜ隣のパネルまで塗るの?」と疑問に思うかもしれませんが、これは「直した場所を目立たなくする」ためのプロの配慮なのです。もちろん費用は多少上がりますが、仕上がりのクオリティは格段に向上します。
高品質な部分塗装を見極めるコツ
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「現車合わせ」の調色を時間をかけて行っているか確認する - ●
見積もり時に「ぼかし塗装」の範囲について説明を求める - ●
太陽光の下でも色が合っているか、納車時に屋外で確認する
関連記事はこちら:DIYでできる塗装補修の方法
5. 全塗装の施工費用と注意点
全塗装を検討する際、やはり一番気になるのは「費用」でしょう。ネットで検索すると「10万円でできた」という声もあれば「50万円以上かかった」という情報もあり、価格差の大きさに戸惑う方も多いはずです。実は、全塗装の費用は「どこまで分解して塗るか」「どのランクの塗料を使うか」によってピンキリなのです。ここでは、費用の相場と、安さの裏にあるリスクについて解説します。
全塗装の相場費用(クラス別・コース別)
全塗装の費用は、主に「車のサイズ」と「施工内容(コース)」で決まります。施工内容は大きく分けて、以下の2パターンがあります。
- 簡易コース(マスキング塗装):
パーツを外さず、ライトや窓ガラスなどをテープで覆って(マスキングして)塗る方法。費用は安いが、テープの隙間から塗料が入ったり、際の部分から塗装が剥がれやすかったりするリスクがある。
目安:15万円〜25万円前後 - 標準〜こだわりコース(脱着塗装):
バンパー、ライト、ドアノブ、モールなどを取り外して塗る方法。パーツの裏側まで塗装が回り込むため、仕上がりが非常に美しく、剥がれにくい。手間がかかる分、高額になる。
目安:30万円〜60万円以上
さらに、ドアの内側やエンジンルームまで塗る「内側塗装」を追加すると、プラス10万〜20万円ほどの追加費用が発生します。単に外側だけの色を変えるのか、ドアを開けた時の違和感まで消したいのかで、予算組みが大きく変わります。
費用を左右する要因と「格安全塗装」のリスク
格安店では、徹底的なコストカットが行われています。例えば、本来外すべきパーツを外さずに塗る、下地処理(足付け)を簡略化する、安価な塗料を使用する、などです。これらが悪いわけではありませんが、「価格なりの仕上がり」になることは覚悟しなければなりません。
よくあるトラブルとして、「ゴムモールの縁に塗料が付着している」「半年も経たずに塗装がパリパリと剥がれてきた」「表面が柚子肌(ゆずはだ:ボコボコした状態)でツヤがない」といった事例があります。全塗装は一度行うと、元に戻すのが非常に困難です。「とにかく安く色を変えて、1〜2年で乗り潰す」なら格安コースも選択肢に入りますが、愛車を長く大切にしたいのであれば、信頼できる板金塗装工場で、ある程度の予算(30万円〜)を見積もっておくことを強くおすすめします。
6. 部分塗装と全塗装の施工期間の違い
修理やカスタムを依頼する際、意外と見落としがちなのが「車を預ける期間」です。通勤や子供の送迎などで毎日車を使う方にとって、愛車が手元にない期間がどれくらい続くのかは死活問題でしょう。部分塗装と全塗装では、この「拘束時間」に天と地ほどの差があります。
ここでは、それぞれの施工期間の目安と、なぜそれほどの時間がかかるのかという工程の裏側について、プロの視点で詳しく解説します。スケジュールの見通しを立てるための参考にしてください。
部分塗装は「スピード勝負」が可能
部分塗装の大きな強みは、施工スピードの速さです。作業範囲が限定されているため、乾燥時間や磨きの時間も最小限で済みます。
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即日仕上げ(クイック補修):
バンパーの角の擦り傷など、ハガキサイズ程度の範囲であれば、朝預けて夕方に納車というプランも可能です。これは、赤外線ヒーターを使って強制乾燥させ、硬化時間を短縮する技術が確立されているためです。 - ●
通常の部分塗装(2〜4日):
ドア1枚の塗装や、少し深めのへこみを伴う板金塗装の場合でも、基本的には数日から1週間以内で完了します。週末に預けて翌週末に受け取る、といったスケジュールが組みやすいのが特徴です。
全塗装は「月単位」の長期戦を覚悟する
一方で、全塗装は非常に時間がかかります。「塗るだけなのに、なぜそんなにかかるの?」と思われるかもしれませんが、全塗装の工程の8割は「塗る前の準備」だからです。パーツの分解、古い塗装の剥離、下地処理(サンディング)、マスキングといった地道な作業に膨大な時間が費やされます。
特に、高品質な全塗装を目指すほど、期間は長くなります。ガラスを外し、ドアを外し、ボンネットを外し、それぞれのパーツを単体で塗装してから再び組み付ける工程を経る場合、1ヶ月以上かかることはザラです。人気店であれば「入庫待ち」を含めて半年後になるケースさえあります。
以下に、施工タイプ別の期間目安と、期間が延びる要因をまとめました。
代車生活のストレスを考慮する
全塗装を選ぶ場合、長期間にわたって代車生活を送ることになります。普段乗り慣れていない軽自動車や、少し古い車が代車として貸し出されるケースも少なくありません。
「たかが代車」と思うかもしれませんが、1ヶ月以上も自分の車に乗れないというのは、車好きにとっては意外とストレスが溜まるものです。また、そもそも「全塗装のような長期預かりの場合、代車は有料」とする工場や、「代車が出払っていて貸せない」というケースもあります。
依頼する前には、必ず「工期中の代車の有無」と「代車費用の負担」について確認しておくことが、トラブルを避けるための必須条件です。
参考ページ:塗装とコーティングの関係
7. 板金修理後の全塗装の必要性
事故や接触で車を大きくへこませてしまった際、「せっかくだから、修理ついでに全塗装してしまおうか?」と考える方がいらっしゃいます。板金修理でボディの一部を直すタイミングに合わせて全体を綺麗にしたい、という心理はよく理解できます。
しかし、プロの視点から言えば、「板金ついでの全塗装」は必ずしもコストメリットがあるわけではありません。ここでは、修理と同時の全塗装を検討する際の判断基準についてお話しします。
「ついで」でも工程は減らない
多くの方が誤解しているのが、「板金修理のついでに塗れば安くなるだろう」という点です。確かに、塗料を作る手間やブース(塗装部屋)を準備する手間は一度で済みますが、それ以外の「足付け(ヤスリがけ)」や「マスキング」といった作業量は、単独で全塗装を依頼する場合とほとんど変わりません。
むしろ、板金箇所(へこみを直した場所)と、それ以外の健全な塗装面では下地処理の方法が異なるため、工程が複雑になることさえあります。「ついでだから半額になる」といった過度な期待はせず、あくまで「別々の作業を同時に行うだけ」と捉えておく方が、見積もりを見た時のショックが少ないでしょう。
色の統一感を出すための選択肢
それでも、板金後に全塗装を検討すべきケースは存在します。それは、「修理箇所とそれ以外の箇所の経年劣化差が激しい場合」です。
例えば、フロント周りを大きく損傷し、ボンネットとフェンダーを新品交換して塗装したとします。すると、車の前半分だけがピカピカの新車状態になり、後ろ半分(ドアやルーフ)のくすみが余計に目立ってしまうという現象が起きます。これを「逆グラデーション」などと呼ぶことがありますが、ちぐはぐな印象を与えてしまうのです。
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外装リフレッシュパックの活用:
全塗装までは予算が回らなくても、修理以外の部分に「研磨(ポリッシュ)&コーティング」を施工することで、全体の艶レベルを合わせる方法があります。これなら全塗装の数分の一の費用で済みます。 - ●
側面吹き切り(片側全塗装):
キズがついた側の側面(フロントフェンダーからリアバンパーまで)を一気に塗ってしまう方法です。これなら、隣り合うパネルでの色の差が出ず、比較的リーズナブルに「直した感」を消すことができます。
板金パテと全塗装のリスク管理
板金修理を行った箇所には、表面を平らにするために「パテ」が盛られています。パテは経年変化でわずかに収縮(痩せ)を起こすことがあります。
もし、板金直後に高級な全塗装を施し、鏡面仕上げにしたとしましょう。数ヶ月後、パテの部分だけがうっすらと波打って見えたり、光の反射が歪んだりすることがあります。これを避けるために、板金箇所は「サフェーサー(下地塗装)」の状態でしばらく時間を置き、パテが安定してから本塗装を行うという慎重な工程を踏む職人もいます。
板金修理を伴う全塗装は、単なる色替え以上にデリケートな作業であることを理解し、焦らずじっくりと仕上げる姿勢が大切です。
8. 部分塗装の耐久性と補修のタイミング
「部分塗装は剥がれやすい」「数年経つと境目が出てくる」といった噂を聞いたことはないでしょうか?これは半分正解で、半分間違いです。正しい技術で施工された部分塗装は、新車塗装と同等の耐久性を持ちますが、施工方法やその後のメンテナンス次第では、確かにトラブルが起きることもあります。
ここでは、部分塗装を長持ちさせるためのポイントと、再補修が必要になるタイミングについて解説します。
「ぼかし際(きわ)」が一番の弱点
部分塗装における最大のアキレス腱は、新しい塗装と古い塗装が重なり合う「ぼかし際」です。前半で解説した通り、プロは塗料を薄く広げてグラデーションを作りますが、この「薄く広がった先端部分」は非常に塗膜が薄く、デリケートです。
何年も紫外線にさらされたり、洗車機で強いブラシ摩擦を受けたりすると、この薄い部分から剥がれが生じたり、白く浮き上がってきたりすることがあります。これが「ぼかし際が出る」という現象です。これを防ぐには、パネル一枚全体にクリア塗装を施す「ブロック塗装」が最も有効です。
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スポット補修(安価):
キズの周辺だけでクリア塗装もぼかす。費用は安いが、将来的に境目が出るリスクが高い。 - ●
パネル一枚クリア(推奨):
色はキズ周辺でぼかすが、最終的な透明保護膜(クリア)はパーツの端から端まで塗る。これなら塗装の「切れ目」がないため、剥がれるリスクが極端に低くなる。
塗装後のメンテナンスで寿命が変わる
部分塗装をした箇所は、言わば「手術後の肌」のようなものです。完全に硬化するまで(内部まで溶剤が抜けるまで)には、数週間から1ヶ月程度かかると言われています。
この期間にワックスを掛けすぎたり、硬いブラシで洗車したりするのは厳禁です。また、塗装が落ち着いた後も、定期的にコーティングを施して紫外線から守ることで、ボカシ際の劣化を大幅に遅らせることができます。
塗装トラブルの種類と、それぞれの対処法をまとめました。もしご自身の車に似た症状があれば、早めの相談をおすすめします。
9. 全塗装でカラーチェンジする際の注意点
全塗装の醍醐味といえば、何と言っても「カラーチェンジ」です。憧れのスーパーカーの色や、純正にはないマットカラーに塗り替えることで、愛車は劇的な変貌を遂げます。しかし、色を変えるということは、「元の色が隠れる場所に残る」というリスクと隣り合わせでもあります。
後悔しないカラーチェンジのために、事前に知っておくべき「塗られない箇所」の問題と、資産価値への影響について解説します。
「ドアを開けた瞬間」の現実に備える
外装だけを綺麗に塗り替えても、ドアを開けた瞬間にピラー(柱)やステップ部分に「元の色」が見えてしまうと、一気に興ざめしてしまいます。例えば、元が白い車を真っ赤に全塗装した場合、ドアを開けるたびに白い鉄板が目に入ることになります。
これを防ぐには「内側塗装」が必要ですが、以下の箇所まで塗るには膨大な追加費用がかかります。
- ドアの内側・開口部:
ドアを外して裏側を塗り、ボディ側のステップやピラーも塗る必要があります。ゴムパーツの脱着も必須です。 - エンジンルーム:
最も難易度が高い箇所です。エンジンを降ろさないと隅々まで塗れないため、数十万円単位の工賃が上乗せされます。多くの場合は「塗らない(黒で誤魔化す)」という選択が取られます。 - トランク・給油口の内側:
意外と忘れがちなのが給油口です。ガソリンを入れるたびに元の色が顔を出します。ここは比較的安価に塗れるので、必ず指定しておきましょう。
売却時の「事故車扱い」リスク
非常に重要な点ですが、色を変えた全塗装車は、中古車市場での評価が分かれます。一般的に、純正色ではない車は、好みが分かれるためディーラーの下取りなどでは査定額が下がることが多いです。
さらに、塗装の質が悪いと「事故を起こして隠すために塗ったのではないか?」と疑われ、修復歴あり(事故車)と同等の扱いを受けてしまうことさえあります。「将来高く売りたい」と考えているなら、純正色での同色全塗装か、あるいはラッピングフィルムによるカラーチェンジ(剥がせば元通りになる)を検討するのも一つの賢い方法です。
10. 長期間乗るなら全塗装がベスト?
ここまで、部分塗装と全塗装の様々な側面を見てきました。最後に、「結局、愛車と長く付き合うなら全塗装すべきなのか?」という問いに対する答えを出しましょう。
結論から言えば、「10年以上乗り続ける覚悟があるなら、高品質な全塗装がベスト」です。しかし、5年以内に乗り換える可能性があるなら、部分塗装で美観を維持するのが経済的に合理的です。
塗装は車の「皮膚」である
車を人間に例えるなら、エンジンは心臓、塗装は皮膚です。皮膚がボロボロでは、いくら心臓が丈夫でも体全体の健康は維持できません。塗装膜が劣化して剥がれると、そこから雨水が侵入し、鉄板を錆びさせ、最悪の場合はボディに穴を開けてしまいます。
一度錆びてしまったボディを直すには、塗装費用の何倍もの修理費がかかります。そうなる前に全塗装で新しい保護膜を作ってあげることは、<s単なるドレスアップではなく、愛車を延命させるための「予防医療」なのです。
「やれた感じ」も一つの選択
一方で、最近は旧車の塗装が多少剥げていたり、錆が浮いていたりしても、それを「味」として楽しむ文化(パティーナ)も定着しつつあります。無理にピカピカにせず、機関系だけをしっかり整備して乗り続けるのも、素敵なカーライフの一つです。
全塗装はあくまで手段の一つです。あなたのライフスタイルや、車に対する価値観に合わせて、後悔のない選択をしてください。
最終判断のためのチェックリスト
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この車にあと5年以上乗り続ける予定があるか? - ●
塗装の劣化(剥げ・チョーキング)が複数のパネルに出ているか? - ●
30万円〜50万円の出費をしてでも、その車を綺麗にしたいという愛着があるか? - ●
部分塗装の「継ぎ接ぎ」ではなく、全体的な統一感を求めているか?
愛車の未来を決める賢い選択を
部分塗装と全塗装、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて詳しく解説してきました。この記事でお伝えしたかった結論は、「現在の車の状態」と「これからの所有プラン」を掛け合わせて判断するということです。
小さなキズや凹みであれば、コストとスピードに優れた部分塗装が最適です。しかし、塗装全体の寿命が来ていたり、この先も長く相棒として連れ添う覚悟があったりするならば、全塗装は決して高い買い物ではありません。それは愛車を蘇らせ、あなたのカーライフをより豊かにする投資となるはずです。
読者の皆さんが明日からできるアクションとして、まずは「信頼できる板金塗装工場に見積もり相談へ行くこと」をおすすめします。その際、単に「いくらですか?」と聞くのではなく、この記事で得た知識を活かして「ぼかしの範囲はどこまで広げますか?」「全塗装の場合、ウェザーストリップ(ゴム部品)は交換しますか?」と具体的な質問を投げかけてみてください。誠実な工場であれば、プロとして親身に相談に乗ってくれるはずです。
大切な愛車が一番輝く方法を選び取り、これからも素晴らしいドライブを楽しんでください。
車の塗装修理に関するよくある質問
Q. 部分塗装の境界線は、時間が経つと目立ってきますか?A. 施工方法によりますが、パネル全体でクリア塗装をすれば目立ちません。
狭い範囲でぼかしを完結させる「スポット補修」だと、数年後に境目が出る可能性があります。長く綺麗に保つなら「パネル一枚塗り」を指定することをおすすめします。
Q. 全塗装をすると、車を売る時の査定額は下がりますか?A. 色を変えた場合、査定ダウンのリスクがあります。
純正色と同色で塗り直した場合は「外装が綺麗」と評価されることもありますが、色替え(カラーチェンジ)は好みが分かれるため、一般的には評価が厳しくなる傾向にあります。
Q. 塗装をお願いしている間、代車は無料で借りられますか?A. 工場によって異なりますが、全塗装のような長期預かりは有料の場合が多いです。
短期間の修理なら無料代車がある工場も多いですが、1ヶ月以上占有する場合は別途費用がかかるか、そもそも貸し出しを断られることもあります。事前の確認が必須です。
Q. 塗装が終わった後、すぐにコーティングをしても大丈夫ですか?A. 塗装が完全に硬化するまで、1ヶ月程度空けるのが理想です。
塗装表面は乾いていても、内部の溶剤が抜け切るには時間がかかります。すぐに被膜で覆ってしまうと、ガスが抜けずに塗装不良(フクレなど)を起こすリスクがあるため、少し期間を置きましょう。
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